昔読んだ、「月と6ペンス」のことを、不意に思い出した。
ある意味、ボクの人生を決定づけるほどの衝撃だったことを覚えている。
あれは、確か、21、2歳の頃だったと思う。
ロンドンの証券マンだったらしいゴーギャンは、ある日、突然、画家をめざし、仕事を辞め、妻子を捨てて、パリに向う。
そして、画家として成り上がり、アルルで、ゴッホとの共同生活の後に、タヒチで生涯を終える。
「月と6ペンス」が、ゴーギャンの話だったことにまず、驚いたが、中身の方も、予想だにしてなかっただけに、面白かった。
ゴッホを描かず、なぜ、ゴーギャンなのかも、理解しがたかった。
もちろん小説では、ゴーギャンの名は、出していないし、全くの創作となっている。
また、ゴーギャンが、モームと同じ、イギリス人であると言う点も、見逃せない。イギリス人の血が騒いだのか?
その前後だったかに、テレビで、ゴッホの映画を観た。
ゴッホの映画も何本かあるが、中でも、一番、観やすく、一般的とされていた、『炎の人 ゴッホ』だ。
これも何度目だったが、好きだったこともあり、くり返されるテレビ放送に、毎回、釘付けになったが、そこに出て来る、ゴーギャンは、実に傲岸不遜な嫌な奴で、「月と6ペンス」とのギャップに、唖然とした。
それは、アンソニー・クインのはまり役でもあったことから、実にリアルだったが、不快感は、募った。
だから、長い間、「月と6ペンス」の中の、ゴーギャンと、映画の中のゴーギャンが、うまく重ならなかった。
今でも、それは、一緒だ。
何が、言いたいのかと言うと、ひとりの人物を取り上げても、その人を主軸として、描くのと、突き放して描くのとでは、描かれ方が、極端に違うと言うことだ。
主人公がいれば、脇役がいる。
それらを同じように主軸に描くことは出来ないのだが、出来れば、主軸に置きたい。
それには、客観性が必要になる。
しかし、その客観性と言うものも、中途半端になりがちだ。
どうしたら、いいのだろう…?
そんなことを、ぼんやりと考えながら、奥田英郎さんの「ナオミとカナコ」を読んだ。
奥田さんの小説は、愛読している。
特に、「無理」は、いまだに、映画化したいほどに、好きだ。
しかし、それに勝るとも思ったのが、「ナオミとカナコ」だ。
少ない登場人物の、全てを、主軸に置いていて、見事と言う他は、なかった。
映画化したいと思ったが、既に、テレビ化が進んでいると言う。
残念で、ならない。
桐野夏生さんのミロシリーズもそうなのだが、ことごとく、映画化に失敗している。
これは、どうしたことかと考えると、桐野さんも、奥田さんも、日本を、日本人を描いてはいるが、世界観が、欧米的なのだ。
つまり、図式的ではないと言うことだ。
ひとりひとりの個性が、際立ち、特異なのだ。
しかし、日本人は、特異を嫌う。
映画であっても、特異性は、一般には、響かない。
個性的と言う言葉を嫌う。
これは、どうしようもないことなんだなと、思う。
思うには、思うのだが、ボクが、魅かれる映画は、全て特異だ。
他人と違うことをやろうとしている。
観た事のない映画を小説を、観たい、読みたい。
日本は、このままずっとかわらないんだろうなとは、思う。
思うには、思うのだが、やはり、特異が一番だなと、痛感する。
万国共通言語であるはずの、映画が、どんどんドメスティックになっている。
あの人も、この人までも、そして、ボクも。
負けては、ならないと思うのだ。
ボクは、ボクの感性と、特異性を信じればいいのだと思う。
去年一年、ボクは、映画を作っていない。
公開された映画も、ない。
怠けるな!
と、自分に言う。
改めて、自分を叱咤激励している。
表と裏は、常にある。
ボクは、裏道を歩き続けたいと、思っている。
2015年4月29日水曜日
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