2020年3月4日水曜日

追憶の街 エンパイアフォールズ

HBO製作のこのドラマ。以前にも、一度観たことがあるが、体調が優れず、ほとんどを眠って過ごした。とにかく、体力がないとドラマや映画を観ることは出来ない。体力をつけるには、とにかく食べること。それに尽きるようだ。
食欲が出てきたときには、いままで敬遠していた映画を観ることが出来る様になったし、読書にも、精を出すことが出来る様になった。

「追憶の街 エンパイアフォールズ」は、そんな中で、たまたま目に留まった作品。
「愛しのロクサーヌ」(87)や「ミスターベースボール」(05)を監督したフレッドスケピシの2005年の作品で、二部からなるミニシリーズ。
アメリカメイン州のエンパイアフォールズと言う架空の街での出来事を様々な人間模様を描きながら、物語っていく。
このドラマには、原作がある。リチャードルッソと言う人が書いていて、脚本も担当している。
だからという訳ではないが、非常に文学的な作りになっていて、娯楽性から言うと、極めて低い。
しかし、この作品には、見事なキャスティングがなされていて、どのシーンを観ていても、生き生きとした役者の演技が楽しめる。
特に、素晴らしいのが主役のエドハリスだ。
微妙な仕草がどれも、主人公の人間性を深めていて、それに共鳴するように、他の役者たちが次々と素晴らしい演技を披露して行く。
調べてみると、エグゼクティブプロデュサーの中に、このドラマに出演している、ポールニューマンの名がある。またこのドラマには、ポールの奥さんのジョアン・ウッドワードーが出演しいる。
ポールは、このドラマの後、3年後、2008年に、俳優引退を宣言する。そして、2018年、83歳で、死去する。

ポールは、この作品以降、声の出演で、「カーズ」などに出演したが、顔を出すことはない。
いわば、この作品が、ポールにとって、最後の作品と言っても過言ではないのではないか? そして、ポール最後の作品として観た時、その味わいは、それを知らない時とは比べ物にならないぐらい、深いものになっていく。
ポールは、このドラマの出演で、俳優業を終わりにしたかったのではないか?
だから、エグゼクティブプロデューサーとなり、主導的立場で、このドラマに関わったのだと思う。

俳優にとって、老いとは、深刻なものだ。
年々台詞の覚えが悪くなっていく。
年相応の役が舞い込んでくるわけでもないので、無理をしなければ、やりこなせない仕事もあるだろう。
しかし、無理は出来ない。
また、現場での、スタッフの対応も、真摯に、敬意をもって、しかも大胆に行わなければならないが、そんなチームばかりではない。
現に、ボクは、とある俳優から、過去に随分と失礼な対応をされたと聞いたことがある。その日の撮影が終わって、宿への送りの車を待っていたら、待てどくらせど、車が来ない。しかたなく、その俳優は、付き人とともに、自力で、宿まで戻ったのだと言う。
そんなことは許されるもんじゃないと憤ったが、その俳優は一度や二度ではなく、頻繁に起こることだと言っていた。
ああ、これも、老いだなと、ボクは思う。ひがみっぽい言い方になるが、他人から乱雑な扱いを受けると、老いがその原因だと思ってしまうところがある。オレも歳をとったのだと。

このドラマの中のポールは、とにかく、生き生きしている。息子役のエド・ハリスとの丁々発止は、おかしいし、何とも言えない暖かさに溢れている。何よりも、少年のような、その稚気。

小さな町の小さな事件は、何ら、ドラマのけん引力にはなっていないが、フィリップ・シーモア・ホフマンを含めた芸達者たちが、のびのびと芝居をしている。
こんな仕事、滅多にないことだと言わんばかりに!
そうなのだ。みんな仕事に飢えている。
しかし、舞い込んでくる仕事は、お仕着せのものばかりで、血が騒いだり、胸が躍ったりするものではない。
ポール・ニューマンであっても、それは同じなのだ。だから、自らエグゼクティブフロデューサーとなり、このドラマを成立させたのだ。これが最後の作品だ。と、言わんばかりに。

また、このドラマは、ロバート・ベントン監督の「ノーバディーズフール」(94)の続編とも言える。「ノーバディー~」では、まだ若いポールが、ブルース・ウィルスらと丁々発止やり合うが、ポールは、このドラマで、全く同じキャラクターのその後を演じているとも言える。

ポール・ニューマンが愛してやまぬ、小さな町の小さな出来事。そこで、飄々と生きる、アナーキーなスモーカー。
映画の王道を生きたポール・ニューマンは、それでもささやかな人間たちの営みに、こよなく愛着を示していたのだろう。



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