2011年2月20日日曜日

『春との旅』ヴズールでの上映、報告

ヴズールの映画祭で、『春との旅』が観客賞を受賞しました!!


ヴズールは、フランスのブザンソンに近い、小さな町です。
そこで17年ほど前から、学校教師夫婦がアジア映画祭を開催しています。
ボクがこの映画祭に参加したのは、二度目。
一度目は、審査委員長として呼ばれました。
『愛の予感』がロカルノ映画祭で賞を撮り、この映画をロカルノで観た夫婦が、ボクを呼んでくれたのです。
確か、その年には、作品だけが出品され、ボクが呼ばれたのはその翌年ではなかったかと思います。
前記のようにボクはその時、務めを果たすことができず、申し訳ない気持ちでこの町を後にしました。
それから三年。釜山映画祭で、何かの部門で審査委員を務めた、奥さんがボクの映画を観てくれて、コンペティション作品として、この映画祭に招待してくれたのです。
『春との旅』がコンペに掛かる映画かどうか、ボクは疑問に思いましたが、三年前の不義理したこともあって、出席することにしたのです。
一回目の上映は、夜八時半から始まりました。
マジェスティックと言うシネコンがメイン会場で、そこの一番大きなスクリーンでの上映です。
こんな大きなところで、果たしてお客さんは来るんだろうか? と心配になりましたが、ロッテルダムでの上映の時と同様、一般のお客さんで、席は埋まり、ボクとしては、責任は果たせたと思いました。
上映後、随分といろんな人から、声を掛けられたのもロッテルダムと同様でした。
「とにか、素晴らしい」
「すべてが完璧だ」
「お前の映画が一番だ」
との賛辞ばかりでした。
これにはとても驚きました。
ボクは、『春との旅』は、ドメスティックに映画だと自分で決めつけていたので、日本での上映と同様の反応に面喰いました。
いままでと一体、何が違うのか?
もちろん、『春との旅』では、様々な試みをしましたが、それを前面に押し出すような撮り方はしていなかったことは確かです。
しかし、この映画の主人公は、過去にボクが映画の中で繰り返し取り上げた、マイノリティーな人間に他ならないのです。
およそ、一般の人たちが魅力を感じるキャラクターの持ち主ではありません。
また、春の方も、現代の女の子とは全くかけ離れたキャラクターです。
とても、ラテン系のお客さんには、理解しがたい内容ではないかと思ったのです。
実際、ボクは、映画の上映後のQAで、ボクの方から、お客さんにこんな質問をしました。
「この映画がロッテルダムで掛かったとき、お客さんの反応が信じられないほどよかったのに驚きました。でも、『アングロサクソンの国だからだ』とある人から指摘されて、そうなのかと思ったものです。その人は、こんなことも言いました。『映画の後半で、春の父親の後妻さんから、一緒に住みませんか? と訊かれるじゃないですか? ラテン系の人たちには、きっと、あそこで断るのが理解できないんじゃないか』と。みなさんは、ラテン系の人たちです。あのシーンの気持ちを理解できるのですか?」
ボクの質問は、受け取りようによつては、無礼な質問です。
ラテン系のケセラセラな人たちに、ある意味ストイックなこの種のシーンは理解できないだろうと言ってるようなものだからです。
ボクの質問に、ある人は、
「そんなことはない」
と答えました。
また、ある人は、
「それは、とてもオリエンタルな感情として理解しました」
と答えました。
映画の後半は、ボクも上映に立ち会ったていたのですが、鼻をかむ音があちこちから聞こえました。
こちらでは、涙を流した後、大きな音を立てて、ハンカチで鼻をかみます。
その音でした。
ボクがこの映画を作る前に、
「この映画はとても、ドメスティックな映画なので、海外では理解しづらいのかもしれない」
と危惧したことは半分は当たっていましたが、半分は外れていました。
今のヨーロッパの人たちは、自分たちにある感情しか理解しないのではなく、オリエンタルな感情であっても、それはそれで十分理解していると考えた方がいいのだなと思いました。
これは、ボクにとって大きな収穫でした。
ヨーロッパに、オリエンタリズムは、十分に浸透しているんだと感じました。

どこまでいってもマイノリティーは排除される日本文化と違って、ヨーロッパには、マイノリティーを理解し、共存していこうという考えが確固としてあるのを、とてもうらやましく思いました。

フランスの片田舎の町で開かれたアジア映画祭で、お客さんたちからの支持を受けたのは、とてもうれしいことでした。
『春との旅』の10年にも及ぶ長い旅が、一応の終止符を打ちます。
締めくくりに、ヴズールでの、今回の受賞は、とても意味のあることでした。

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